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東京高等裁判所 昭和34年(う)1234号 判決

被告人 浅沼厳

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年に処する。

原審における未決勾留日数中三十日を右本刑に算入する。

但し本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴の趣意第一点について。

論旨は、本件家屋の二階八畳間の床板は根太にただ置かれてあつたもので、いまだ建物の一部を構成したものとはいい難いから、この床板の一部焼毀を以て建物の一部焼毀として刑法第百八条を適用した原判決には法令の適用に誤りがある、と主張するものである。よつて、按ずるに、畳、建具その他家屋の従物が刑法第百八条にいわゆる建造物たる家屋の一部を構成するためには該物件が家屋の一部に取り付けられているだけでは足りず、さらにこれを毀損しなければ取り外すことができない状態にあることを必要とすることは所論のとおりであるが、家屋に取り付けられた床板はその後修理のため一部釘付けされない部分を生じたとしても、社会通念上、右畳、建具その他の家屋の従物とは異なり、全体として家屋の一部を構成するものというべきであつて、この点に関する原審の判断は相当といわなければならないのみならず、当審証人金川利行の供述並びに司法警察員警部補西島雄二作成の昭和三十四年三月二十四日付及び同年四月二十二日付各実況見分調書を綜合すれば、本件家屋の二階八畳間の床柱に向つて右側の釘付けされた床板の部分にも焼毀されて炭化した部分の存することが認められ、なお本件においては右床板のほか、床の間の床框にも炭化した部分があり、いずれも独立燃焼の程度に達していたものと認められるから、原判決が被告人の所為を刑法第百八条に問擬したのはもとより相当であつて、原判決には何ら所論のごとき法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。本件は量刑不当で破棄自判。)

(裁判官 坂井改造 山本長次 荒川省三)

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